プロジェクト納品型ビジネスと、仕組みで儲けるビジネスの違い

前職のプロバイダーで働いて、最初に驚いたのは従業員の労働時間と売上について。新卒で入社したSlerも、前職のプロバイダーも従業員数は本体600-700人くらいの規模でした。

しかし、売上が3倍くらい違う。Slerは当時年商300億円くらいでしたが、プロバイダーは1000億円。

労働時間といえば、Slerの現場は最低でも9時過ぎまで会社にいて、プロジェクトの佳境に差し掛かると会社に寝泊まりすること多数という始末でした。激務でバタバタと体調を崩していく先輩や同僚たちを見ながら、残業代いらないから普通に家に帰りたいとよく同僚と話したものです。

一方、プロバイダーの方は、皆遅くても7時くらいに帰って行ってしまう。ワークライフバランスが取り易いためか、既婚女性もSlerよりずっと多い職場でした。

同じ従業員規模で、なぜこんなに売上も労働時間も違うのか、よく考えていました。

プロジェクト納品型の仕事はマンモスを狩るのに似ている

結論から言うと、鍵はビジネスモデルの違いだと思っています。

Slerのようなプロジェクト納品型の仕事では、営業が仕事を取ってきて、その後要件定義、開発、納品と仕事が流れていきます。

こういうプロジェクト納品型のビジネスモデルの場合、人が実施に働いて動かない限り仕事は進まず、お金も入ってきません。唯一最大のコストは人件費ということになります。

唯一最大のコストが人件費ならば、経営サイドが考えることはシンプルです。プロジェクトが回る最小人数をアサインし、より多くの案件をより少ない人数でこなすことを考えるのです。

少ない人数でより多くの仕事をこなす。必然的に激務になっていくわけです。コンサル、会計事務所、システム導入などはこの典型です。

例えるなら、このビジネスモデルはマンモスを常に狩りにいくようなものです。少ない人数でマンモスを仕留めた方が、一人当たりの分け前が増える。しかし、食べ続けるためには、マンモスを狩り続ける必要がある訳です。

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仕組みで儲ける仕事は農耕型

しかし、僕が働いていたプロバイダーのようなビジネスになると以下のようになります。

  • 販売:代理店、ウェブサイトが勝手に販売
  • サービス:協力会社が工事を実施し、ユーザーが勝手にサービスを利用
  • 課金:ユーザーはクレジットカードで自動的に支払い
  • カスタマーサービス:外注ベンダーがマニュアルに従って対応

つまり、サービスの販売からカスタマーサービスに至るまで、社員は実際の業務を全くしていません。すべてのプロセスが仕組み化されていて、各自は自分の任された仕組みの一部のメンテナンスと最適化をひたすら図っているのです。

納期と呼ばれるものは対外的には存在していないため、ちっと都合が悪くなればデッドラインを延ばすことも比較的容易です。

営業部の各営業担当者のことを車内では「販路担当者」と呼んでいたのは、実に本質をついた呼び名だったと思います。なぜなら、誰も自分でサービスを直販しないからです。

唯一の例外は僕が担当していたオンライン販売の部分ですが、ここもウェブサイト経由でサービスを販売していたため、やはり「販路担当」ということになります。

いわば、仕組みで儲けるビジネスモデルは農耕型とも言えます。仕組みを育てて、維持することで収益を得ることができる。

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この濃厚型のメリットはレバレッジが効きやすいことです。植えた苗や、飼育している家畜は従業員数とは関係なく上手くやれば何倍にも増やすことができます。

また、食べたら終わりのマンモスとは異なり、一度獲得したお客様は定期的にお金を落とし続けてくれます。いわゆるストックビジネスです。

 

もっとも、パッケージソフトウェアを開発している企業は、狩猟型と農耕型の掛け合わせのような企業も多々あります。

ERPパッケージソフトの世界シェアNo.1 のSAPなどはその代表例で、販売はパートナー企業が狩猟型ビジネスで獲得し、その段階では自社のコンサルの派遣なども行っています。

しかし、一度導入が終わると導入企業から高額な保守料をストックビジネスとして受け取り続けることができます。

こうして得た収益をシステムのバージョンアップや追加機能の開発等に再投資するという流れです。

ちなみに。SAPの2016年度売上は2兆7000億円。化け物ですね。