村上世彰氏の著書「生涯投資家」から村上世彰氏の投資スタイルと投資哲学を学ぶ

先日、長年の沈黙を破りメディアに再び登場し始めた村上世彰氏の本を読んだ。当時は社会のことを何も知らない大学生でしたが、テレビに毎日のように登場する村上世彰氏を見て、胡散臭いだなあ、と思っていたのは僕だけではないのではないかと思う。

当時から、通産省のキャリア官僚だったことは知っていましたが、なぜ官僚が投資家になったのか不思議でした。しかし、今回の書籍を読んで、小学三年生から経営者だった父親の手ほどきで株式投資をやっていた村上世彰氏にとっては、官僚から投資家になった訳ではなく、元々投資家だった村上世彰氏が、一時官僚になり、その後投資家に戻っただけだった、ということが分かりました。

今回この本を読んで、信念にひたすら真っすぐな人物なのだと考えを正しました。裁判のことはよく知りませんので、個人的な憶測ですが、有罪判決を受けたのは、ホリエモン同様、日本人にありがちな「けしからん罪」のあおりを受けたのではないかと邪推します。

ちなみに「けしからん罪」とは、 「コイツ、なんだかイキがってるな! けしからん!」 といって、いろいろ根掘り葉掘り調べられ、グレーのものが見つかれば 「ほら、ブラックだ!」 と言って逮捕されてしまうことです。

村上世彰氏の投資スタイル

ちょっと脱線しました。 この本には、いろいろなことが書いてありますが、村上世彰氏の投資スタイルについての説明が非常に興味深い。正直なところ、僕のような弱小個人投資家には真似できないことばかりなのだが、備忘録としてポイントをまとめておきたい。 村上世彰氏は投資のポイントとして、3つのポイントを挙げていた。それは次の3点。

  1. 期待値
  2. IRR
  3. リスクの査定

1)期待値

村上世彰氏は投資の本質は、『リスク度合いに比して高い利益が見込まれるものに投資をすることだ』と本書の中で説明されていた。 つまり、通常はハイリスクに対しハイリターン、低リスクに対しては低リターンと、リスクとリターンは比例しているものです。

しかし、村上世彰氏の場合は、リスクは中レベルだが、高リターンを期待できるなど、 このバランスが崩れているものを投資の対象にしているとのことです。これが期待値です。 投資対象を様々な観点から分析、研究して独自の期待値を算出。この独自の期待値が投資の指標になっています。この期待値は最終的には●倍といった倍数になり、基本的にはトータルで1倍以上であれば投資のリターンが期待できる、という結論になるようです。

この独自の期待値の算出についての詳細は書籍の中では割愛されていましたが、僕のような弱小投資家とは異なり、多角的な観点で分析をしているであろうことは想像に難しくありません。

面白いのがギャンブルについての記述。この期待値でギャンブルの期待値を算出すると、宝くじは0.3、公営ギャンブルは0.75、カジノは0.9となりいずれも1倍を下回るため、確率的に必ず損をする勝負になるため、ギャンブルには一切手を出さないとのこと。

2)IRR(内部収益率)

次にIRRです。IRRとはInternal Rate of Returnの略で、日本語では内部収益率という言葉です。MBAのクラスに居たときに、ファイナンスのクラスで学んだ概念です。 IRRとは企業が投資を判断する基準の一つで、投資によって得られると見込まれる利回りと、本来得るべき利回りを比較し、その大小により判断する手法のことです。

IRRだけ見れば、より高い方が良い、ということになります。 村上世彰氏の基準では、このIRRの数字が15%以上、というのが投資条件の二つ目になるそうです。ただし、IRRには事業リスク、という概念が含まれていません。そこで3つ目のリスクの査定というポイントが大切になってきます。

3)リスクの査定

最後のリスクの査定についてですが、こちらは定量的な情報よりも定性的な情報を重視しているとのことで、経営者はビジネスパートナーの性格や特徴を、ディスカッションを通して理解するような努力をしているそうです。 経営者と話をするというのは、大きな資金を投資する投資家であるからできることではありますが、リスク査定においては右脳で考えて判断しているとのことは非常に興味深いポイントでもあります。

コーポレートガバナンスに命をかける姿がかっこいい

村上世彰氏の哲学は一貫していて、それは「コーポレートガバナンスを日本に根付かせたい」というものです。 コーポレートガバナンスとは、企業統治というのが日本語ですが、村上世彰氏の言うコーポレートガバナンスとは、株主による経営者の統治ということになります。

株主がもっと声を上げて、企業経営者の暴走を止めないといけない、ということのようです。 資本主義経済においては、資本を持っている者がヒエラルキーの頂点に居る訳で、株主になるということはそのヒエラルキーの頂点に身を置くということでもあります。 事実、会社法上は、出資者である株主が取締役の選任権を有し、最終的に事業の運営を支配しているということになっています。

しかし、実際には僕もそうですが、株主として発言をしたり、経営者に対して企業に要望を送ったりすることはほとんどないのが実情です。 こうした現状を変えようと、一貫して戦い続ける村上世彰氏は本当の投資家なのだと本書を読んで学ぶことができました。

 

生涯投資家

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