なぜ海外大学の奨学金は返済不要なのか? 学費が無償化できる凄い仕組み

最近は大学教育や幼児教育を無償化するべきかどうか、という議論がホットですね。安倍さんが選挙公約として突如ぶち上げた幼児教育の無償化については、2兆円以上のお金がかかるとかで、全方位なバラマキで人を囲い込む、自民党の必殺技がまた出たな、という印象です。

今回に限らず、教育の無償化、というとすぐに税金で賄うという議論になりますが、一部の生徒向けではあるものの、税金に頼らずに大学の学費を無償化できている例を僕自身の経験から紹介したいと思います。

40歳でまだ大学の育英会奨学金を返済中

僕は大学は国内の明治大学を卒業し、大学院で米国の私立大学に通いました。社会人経験を挟んでいるので、米国の私立大学に入学したのは29歳の時です。

大学、大学院共に奨学金を受けていました。大学の奨学金は国の育英会ですが、この育英会の奨学金、40歳にもなってまだ返済しています。汗

大学院の方はといえば、返済するべき奨学金というものがありません。

なぜ先に受けていた大学の奨学金の返済を未だに続けていて、大学院の奨学金の返済がないのか。その理由は、育英会の奨学金は奨学金という名前がついていたものの、その実態は学資ローンであるのに対し、大学院の奨学金は返済不要の奨学金だったからです。

学費が完全無料になる返済不要の奨学金の正体

この大学院の奨学金は信じられないほど太っ腹で、学費、保険、教科書全て無料。総額500万円くらいかかったと思いますが、全額奨学金が負担してくれました。

一体どういう仕組みになっているのか? 詳しく説明していきたいと思います。

返済不要の奨学金は10人前後の超金持ち資産家が出してくれている

この奨学金プログラムは米国で学ぶ留学生を対象にしたもので、ビジネススクールで学ぶ20名程の学生が対象になっていました。

気になるお金の出所はといえば、超お金持ちの富豪たちです。10名程の富豪たちが毎年一定額を拠出して、その資金を学生に提供してくれているのです。

この富豪たちは、大学が運営するNACというサロンに所属しています。NACはNational Advisory Council の略で、大学から招待されなければ入会できない招待制の特別なグループになっています。

NACメンバーに選ばれる条件は色々ありますが、ビジネスで成功していることはもちろん、人格が大学の目指しているものと合致していることというものがあります。さらに興味深いのが「Presidental Levelの寄付を大学に毎年すること」というとんでもない条件があります。

「おめでとうございます! あなたはNACメンバーに選ばれました! つきましては、これから毎年XX百万円の寄付を大学にお願いします!」

 通常ならこんな意味の分からないオファーを受ける人はいないと思いますが、アメリカでは受け入れられるのです。

アメリカン・ドリームの最終ゴールは社会貢献

その理由の一つが、成功者の最終ゴールとして認知されていることの違いがあります。

アメリカでは、アメリカン・ドリームの最終ゴールは社会貢献だ、という共通観念のようなものがあります。

ビルゲイツしかり、ウォレンバフェットしかり、大成功を収めた後は、巨額の資産を様々な慈善団体に寄付して社会貢献をする。これが最高にカッコいいことだ、という共通のコンセンサスのようなものがあるのです。

大学が会員制サロンを通じて富豪たちに提供するのは社会的信用と人脈

大学が運営しているNACという会員制サロンは、そこに加入できる事そのものが名誉なことで、地域社会の中での個人の信用を大きく上げてくれます。

そして何よりも大きいと思われるのが人脈でしょう。サロンのメンバーに加入できることで、他のメンバーと定期的に交流し、トップクラスの人脈を広げることが可能になります。こうした人脈が、新しいビジネスの機会に繋がっているであろうことは容易に想像できます。

大学への寄付金は税金の控除対象になる

それでも数百万から数千万の毎年の寄付金は決して小さな額ではないと思いますが、アメリカでは寄付金は税金の控除対象となるというメリットがあります。

具体的には、アメリカ当局に届け出が出されているアメリカ国内団体への寄付金を税金から全額控除する、という仕組みです。

どうせ払うのであれば、税金よりも自分が支持する団体に寄付しようと思うのは自然な流れかと思います。

奨学金を受ける学生に課せられる責任

では、受け取る学生側にはどんな義務が発生するのでしょうか。

応募プロセスでは、ビジネススクールへの入学許可が下りていることを前提に、様々な条件を満たした上で、エッセイと面接にパスする必要があります。

この条件の中で最も興味深かったのは、卒業後、母国に帰国することを決意しなければならない、というものでした。留学生の使命として、それぞれの国で活躍して欲しい、という明確な意図がそこにはあります。

さらに、年に一度、留学生向けの奨学金の基金に寄付している7、8名の富豪たちが大学に訪問する機会あり、その時に奨学金を受け取っている学生たちが一人ずつ呼ばれ、現在の勉強の状況や将来どのように社会に貢献しようと思っているのか、そのプランや決意を彼らに説明することが求められていました。

こうして支援を受けて卒業して行くと、当然高いキャリアを積むことができ、社会的に大きな成功を納める卒業生たちが一定の確率で生み出されていきます。こうした卒業性が将来のNACメンバー候補になって行く、という訳です。

 

これはアメリカの大学が提供している様々な奨学金制度の一例ですが、仕組みとしては非常に完成されていると思います。

ところで僕が返済を続けている育英会の奨学金という名前の教育ローンですが、完済まで残り一年となりました。完済した際には妻と祝杯をあげたいと思います。